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丸一年も過去のことを未だに引きずっているやつがいた。
すべてお互いの了承済みで、ことの決着はついたはずだった。
決着がついた直後もやつはグダグダ未練がましいことを言ってきた。
でもあたしにはそれが堪えられなかった(というか誰が堪えられようか)から、切った。
もともと「切る」ことが前提で、それをお互い承知した上での、結末だったはずだ。
そうしてやつはあれから一年が経った今、秘められた過去は記憶の底に封じ込めて、本当なら幸せな人生を歩んでいるはずだった、というか歩んでいると思っていた。
でも、一年経った今でも、やつはグダグダと毎日のように周囲の人間に電話をわざわざかけて、あれこれと一年以上前の話をでっちあげて作り上げて吹聴しているらしいということを知った。
虚しくないんだろうか。
丸一年だよ、完全に決着がついたあとのことはやつにはまったく関係がないことなのに、まるで自分が被害者であるように毎日繰り返し繰り返し、あたしとあたしの大切な人を陰で罵倒する。
こころが病んでいるから、それすらも気づかないんだろうか。
ある人は「やつの話は半分は本当だ」というけど、誰よりも当事者であるあたしは断固としてそれは否定する、「やつの話は全部ウソだ」と言い切れる。
結局やつがしていることは、自分がどれだけ腐った人間か周りにわざわざ誇張してばらまいているわけで、あたしが出て行って本当のことを話せば、やつの人生は終わるんじゃないか。
でも今はまだそのときではない。
悔しいけれど、あたしはまだ口を閉ざしていなければならない。
あたしは自分の一番大切な人間が、やつのくだらない、本当にくだらなくて子供じみて、病んだあの精神によって周りの人間に誤解されるのがどうしても許せない。
その大切な人は、「まぁ勝手にやらせておけば」と至って落ち着いている、少なくともそう見える。
きっと一番悔しいのは、その人なんだろうと思う。
でもたぶん同じくらい悔しいのは、あたしなんだろうとも思う。
あたしからしたら見ず知らずの人に、意味不明な、しかも侮辱的な呼び名をあてがわれ、やつが毎日かける電話の先で陰口を叩かれているらしい。
それを本気で信じてしまう周りの人間もおろかだと思うし、哀れでもある。
どうしてやつの話を信じてしまうのだろう。
やつがどれだけ信用できない人間か、さんざん見てきたはずなのに、それでもわからないものもいるんだ。
自分が侮辱されることももちろん腹が立つが、それ以上にあたしの大切な人に対するやつの言いようだけは許せない。
やつは何も知らない、自分がどれだけ信用されてないかも知らない。
出来ることなら殺してやりたいくらいの殺意すら芽生える。
生きてる価値があるとは思えない。
あたしも自分でネガティブな部分で毒のある人間だと思うし、あたしに触れる人間には何かしらの傷を残していくと言われたこともあるし、実際そうだとも思う。
忍耐力もなくて、すぐ文句垂れるし、すぐ落ち込むし、頑張ってるけどまだ本当に未熟な人間だと思う。
でも、やつほど腐臭は強くないと信じたい。
太陽の下に出たとき、あたしは容赦なくやつを裁く。
おこがましいと思われるだろうが、あたしがあたしなりに自分の大切なものを守るためには、あたしに出来ることといったらそれくらいしかない。
一方で、ひどく弱い自分がいる。
あたしがやつと出逢ったこと自体が過ちで、そこからそれに関わるすべての人たちの歯車を壊していっているんだと思っている自分がいる。
大切な人が築き上げてきたものを奪ったり壊したりしたくない。
でもあたしがいるせいで、やつの人生も狂ったのだろうし、それが発端となって火の粉が飛び火するようにしてあちこちに暗い焦げのような染みが明るみにでてきた。
「じゃあお前はそう言ったところで、何ができるんだ?」と問われたけど、実際何もできない。
謝ることくらい・・・? でも誰に? それで何がどうなるってんだ?
死んで詫びればいいんだろうか。
出逢う前、歯車が狂う前の時点になんて戻れやしないのに。
でもすべてはたぶん必然で、今こうして現実や現状がある。
それでも「あたしがいるから」と息ができなくなることがある。
あたしに出来ることなんて、とても小さくて、あたしがあたしを信じる気持ちを失ったら、それもすぐに消えてしまうようなか細い火で、本当にこれでいいんだろうかと自問しても答えはないし。
いや、これでいいんだと励まして、信じて、ときを待つしかない。
苦しい日陰の道ってのは、とてもとても長く感じる。
どうしてあたしがあんなやつのために苦悩しなければならないんだ。
なんだかもう、どうしていいのかわからない。
母がときおり洩らす言葉が胸に突き刺さる。
そんなの、わかっている。
誰よりもあたしが強く感じている。
でもそれは口に出せない、あたしは黙って信じなくてはいけない。
あたしのこころが、悲しいとか、つらいとか、淋しいとか、不安とか、怒りとか、殺意とか、哀れみとか、ごちゃまぜの気持ちの嵐を絞り出すようにして悲鳴を上げている。
出来ることなら、楽にしてやりたい。
やつのことも、自分のことも。
ため息が、とてもとても深い。
いつになったら闇は晴れる。